顧問先事業主様からの質問
フレックスタイム制とは何ですか? またフレックスタイム制なら残業代を支払わなくても良いですか?
「フレックスタイム制」は、会社にとっても従業員にとっても、効率的な労働環境を構築することのできる、大変便利な制度です。
「フレックスタイム制を採用していれば、残業代は払わなくてもよい」という、誤った理解が広まっているようですが、これは大きな間違いです。
フレックスタイム制を採用していても、残業代は支払わなければなりません。
そこで今回は、
- フレックスタイム制とは何か?
- どうすればフレックスタイム制を導入することができるか?
- フレックスタイム制を導入した場合の残業代の計算の仕方は?
についてご説明します。
1.フレックスタイム制とは何か?
フレックスタイム制とは、1ヵ月以内の「一定期間(清算期間)」と、同期間における「総労働時間(総枠)」を定めておくことによって、始業及び終業時刻は労働者の決定に委ねるという制度です。
例えば、岐阜ひまわり事務所の始業・終業の時刻は、
「9:00出勤の18:00退社の8時間労働」なんですが、
フレックスタイム制を導入すれば・・・
名古屋から出勤しているA従業員は、渋滞を避けるため、
「10:00出勤の19:00退社の8時間労働」にしたり
子供がまだ小さいB従業員は、早めに帰宅したいから、
「8:00出勤の17:00退社の8時間労働」にしたりと、
従業員が自分で、始業・終業の時刻を決められる。
という制度です。
また会社のメリットとして、
「一定期間(清算期間)」において「総労働時間(総枠)」を超過しなければ、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて労働させることができます。
また、「コアタイム(必ず出勤していなければならない時間帯)」と、「フレキシブルタイム(いつ出勤しても退勤しても構わない時間帯)」とに分けられていることも特徴のひとつです。
※コアタイムを設けず、フレキシブルタイムのみの完全なフレックスタイム制も可能です。
2.どうすればフレックスタイム制を導入することができるか?
フレックスタイム制を採用するためには、「就業規則」又は「労使協定」によって、下記の事項を定める必要があります。
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間(総枠)
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイムとフレキシブルタイム(定める場合のみ)
なお、この労使協定は、労働基準監督署への届出義務は課されていません。
1.「対象となる労働者の範囲」とは
フレックスタイム制を採用する労働者の範囲です。
例: 全労働者、正社員、営業課に所属する者、など。
2.「清算期間」とは
労働契約上、労働者が労働すべき時間を定める期間のことです。
清算期間の長さは、1ヶ月以内と決められています。
「1カ月以内」ですので、1カ月単位のほか、1週間単位なども可能です。
賃金計算期間と一致させて1カ月単位とするのが一般的のようです。
「期間の長さ」だけでなく、「起算日」も定める必要があります。
例: 毎月1日から月末までの1ヵ月、など。
3.清算期間における総労働時間(総枠)とは
清算期間内に労働しなければならない時間、
言い換えれば、「フレックスタイム制が採用されている労働者の所定労働時間」の事です。
これを、「清算期間における総労働時間(総枠)」と言います。
似た言葉に、「清算期間における法定働時間(総枠)」というものもあります。
これは後で説明する残業代の計算時に使います。
この2つの違いを簡単に表現すれば、次の通りです。
「清算期間における総労働時間(総枠)」とは、会社ごとに定められた所定労働時間。
「清算期間における法定労働時間(総枠)」とは、法律にて定められた最大労働時間。
『法定労働時間(総枠)』は法律にて定められた最大労働時間ですので、労使協定に定めなければならない「総労働時間(総枠)」は、これより少ない、あるいは、同じでなければならないということに注意が必要です。
すなわち、
「清算期間における法定労働時間(総枠)」 ≧ 「清算期間における総労働時間(総枠)」
としなければなりません。
なお、『法定労働時間(総枠)』は次の計算式で求めます。
法定労働時間(総枠) = 1週の法定労働時間 × 清算期間における暦日数 ÷ 7
計算が面倒な方のために、法定労働時間(総枠)を早見表にしておきました。
1週の法定労働時間が40時間の場合 | |
暦日数 | 法定労働時間(総枠) |
---|---|
31日 | 177.1時間 |
30日 | 171.4時間 |
29日 | 165.7時間 |
28日 | 160.0時間 |
1週の法定労働時間が44時間の場合 | |
暦日数 | 法定労働時間(総枠) |
---|---|
31日 | 194.8時間 |
30日 | 188.5時間 |
29日 | 182.2時間 |
28日 | 176.0時間 |
4.標準となる1日の労働時間とは
フレックスタイム制が採用されている労働者が有給休暇を取得した場合、ここで定めた標準となる1日の労働時間分の労働をしたものとして取り扱われます。
一般的には、「総労働時間(総枠)」を、その清算期間における所定労働日数で除した時間数が用いられますが、単に適切な時間数を定めるのみでも問題ありません。
よくある質問
「標準となる1日の労働時間を8時間」と定めた場合、
「従業員が始業時刻は自由に定めることができるが、必ず1日8時間働かなければならない」
と思われている事業主さんが多いです。
これは間違いで、 フレックスタイム制は始業時刻と終業時刻を自由に労働者が決定できる。という制度なので、必ずしも1日の労働時間が8時間になるとは限りません。
あくまでも標準となる1日の労働時間とは、労働者が有給休暇を取得した場合、ここで定めた時間が有給休暇取得日に労働したものとして取り扱われるためのものです。
5.コアタイムとフレキシブルタイムとは
「コアタイム」とは、必ず勤務していなければいけない時間帯
「フレキシブルタイム」とは、いつ出社・退社しても構わない時間帯
を言います。
なお、コアタイムは必ずしも設ける必要はないので、労働時間帯の全部をフレキシブルタイムにすることもできます。
但し、 労働時間帯のほとんどがコアタイムで、フレキシブルタイムがほとんどない場合は、フレックスタイム制とはみなされないので注意が必要です。
3.フレックスタイム制を導入した場合の残業代の計算の仕方は?
通常の労働時間制度での法定労働時間は、
1週40時間、1日8時間 と定められています。
通常の労働時間制度では、上記の法定労働時間を超えた労働時間については、残業代を支払う必要があります。
ただしフレックスタイム制では、上記の「1週40時間、1日8時間」の法定労働時間ではなく
「清算期間における法定働時間(総枠)」を超えたかどうかで時間外労働か否かを判断します。
フレックスタイム制の法定労働時間の計算方法
「清算期間における法定働時間(総枠)」の計算の仕方は、
法定労働時間≦週法定労働時間×(清算期間日数÷7)
清算期間を「1ヵ月」と定めた場合、月の日数によって法定労働時間は次のようになります。
週の法定労働時間数
|
|||
40時間の場合
|
44時間の場合
|
||
1ヶ月の日数
|
31日 | 177.1時間 | 194.8時間 |
30日 | 171.4時間 | 188.5時間 | |
29日 | 165.7時間 | 182.2時間 | |
28日 | 160.0時間 | 176.0時間 |
上記の場合、 勤務時間が「1日8時間、1週40時間」を超えていたとしても、1ヶ月単位でこの労働時間を超えなければ時間外労働とはみなされません。
反対に1ヶ月以内に上記で定められた労働時間を超えた場合には、しっかりと残業代を支払う必要があります。
4.その他
フレックスタイム制には、「総労働時間(総枠)」に不足があった場合に、不足分を翌月に繰り越すこともできるという特別な調整方法が認められています。
これこそが、フレックスタイム制がとても柔軟な制度であり、効率的な労働環境を構築することに一役買ってくれる一因ですが、正しい運用方法は意外と知られていません。
フレックスタイム制については、岐阜ひまわり事務所までご相談ください
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