文責 社会保険労務士井戸
フレックスタイム制について
以前にもこの場をお借りして、
【顧問先事業主様からの質問:フレックスタイム制とは何ですか? またフレックスタイム制なら残業代を支払わなくても良いですか?】
について、ご回答を掲載いたしました。
最近、フレックスタイム制のお問い合わせが多くなってまいりましたので 再度、前回より詳しくフレックスタイム制についてご説明いたします。
1.フレックスタイム制とは
労基法では、始業・終業の時刻は、会社が定める事を原則としています。
しかしこの例外としてフレックスタイム制では、労働者が1カ月以内の一定の期間において一定時間数労働することを条件として、労働者自らが自由に始業・終業時刻を選択できる。とした制度です。
なお、行政通達でも下記のようにフレックスタイム制の趣旨を規定しています。
(昭63.1.1基発1号.平11.3.31基発168号,平30,9.7基発0907第1号)
フレックスタイム制の趣旨は、1カ月以内の一定期間の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業・終業の時刻を選択して働くことにより労働者がその生活と業務との調和を図りながら、効率的に働くことを可能とし、労働時間を短縮しようとするものである。
なお、平成31年4月1日施行の改正労基法において、フレックスタイム制がより利用しやすい制度となるように、後述します清算期間の上限を3カ月に延長する等の見直しが実施されました。
フレックスタイム制とは
(1) 変形労働時間制との違い
労働基準法では、労働時間を1週40時間以内、1日8時間以内と定めています。
フレックスタイム制は、この1週40時間,1日8時間という固定的な労働時間制の弾力的運用を認める制度。
という意味では変形労働時間制と共通していますが、
変形労働時間制では始業・終業時刻を使用者が定めるのに対し、フレックスタイム制では始業・終業時刻を労働者が決定できる点が大きく異なります。
フレックスタイム制は、1週,1日の固定的な労働時間を定める労働基準法32条の例外であり、労働時間を把握してこれに応じて割増賃金を支払うことを定める労働基準法36条・37条の例外ではありませんので、フレックスタイム制を導入したとしても割増賃金は原則通り支払わなくてはなりません。
行政通達でも
フレックスタイム制を採用する事業場においても各労働者の各日の労働時間の把握をきちんと行うべきものである(昭63,3.14基発150号)。
としています。
2.フレックスタイム制の導入要件
フレックスタイム制を導入するためには、下記の要件を満たすいずれも必要があります。
フレックスタイム制の導入要件
(1) 一定の労働者につき、その始業・終業時刻を各労働者の決定に委ねることを就業規則に記載すること。
(2) 一定事項を定めた労使協定を締結すること
※ 清算期間が1カ月以内の場合にはその労使協定の届出は不要
下記に具体的にご説明します。
フレックスタイム制の導入要件
(1) 始業・終業時刻を各労働者の決定に委ねることを就業規則に記載すること
フレックスタイム制を採用するためには、会社は一定範囲の労働者について、その労働者の始業・終業の時刻をその労働者の決定に委ねることを就業規則で定めなければなりません。
行政通達では、
コアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)、フレキシブルタイム(労働者がその選択により労働することができる時間帯)も始業・終業時刻に閏する事項であるため それらを設ける場合には、就業規則に規定しなくてはいけない。(昭63,1.1基発1号,平11,3.31基発168号)。
としていますが、フレキシブルタイムとコアタイムが定められた労使協定を就業規則に添付して就業規則の一部とすることにより、上記通達に指摘されている始業・終業時刻に関する事項も就業規則上規定しているものとされます。
フレックスタイム制の導入要件
(2) 一定事項を定めた労使協定を締結すること
フレックスタイム制を導入する二つ目の要件として、以下の①〜⑦の事項を定めた 労使協定を締結が必要となります。
労使協定の締結事項
① 対象となる労働者の範囲
② 清算期間
③ 清算期間における総労働時間
④ 標準となる1日の労働時間
⑤ コアタイムを定める場合には,その開始・終了時刻
⑥ フレキシブルタイムを定める場合には、その開始・終了時刻
⑦ 清算期間が1カ月を超える場合には、協定の有効期間
以下、各項目をご説明します。
一定事項を定めた労使協定を締結すること
① 対象となる労働者の範囲
フレックスタイム制では、適用対象となる労働者の範囲を特定する必要があります。
一定事項を定めた労使協定を締結すること
② 清算期間
フレックスタイム制では、清算期間とその起算日を定める必要があります。
清算期間とは、フレックスタイム制において その期間を平均し1週間あたりの労働時間が1週40時間を超えない範囲において労働させる期間をいいます。
一定事項を定めた労使協定を締結すること
③ 清算期間における総労働時間
フレックスタイム制では、清算期間における総労働時間を定める必要があります。
清算期間における総労働時間とは、フレックスタイム制において 労働契約上労働者が労働すべき時間を定めるものです。
そして、この時間は、清算期間を平均し1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内とするよう定められなければなりません。
計算方法は以下のとおりです。
一定事項を定めた労使協定を締結すること
④ 標準となる1日の労働時間
フレックスタイム制では、標準となる1日の労働時間を定めます。
標準となる1日の労働時間とは、フレックスタイム制において 年休を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間等となる労働時間の長さを定めるものです。
単に時間数を定めれば足りるとされています。
一定事項を定めた労使協定を締結すること
⑤ コアタイムを定める場合には、その開始・終了時刻
フレックスタイム制では、コアタイムについて定める必要があります。
コアタイムとは、フレックスタイム制において労働者が必ず労働しなければならない時間帝をいいます。
このようなコアタイムを設ける場合には、その時間帯の開始・終了時刻も定めなければなりません。
一定事項を定めた労使協定を締結すること
⑥ フレキシブルタイムを定める場合には、その開始・終了時刻
フレックスタイム制では、フレキシブルタイムを定める必要があります。
フレキシブルタイムとは、フレックスタイム制において労働者がその選択により労働することができる時間帯をいいます。
このようなフレキシブルタイムを設ける場合には、その時間帯の開始・終了時刻を定めなければなりません。
なお、行政通達で
フレキシブルタイムが極端に短い場合や、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業・終業の時刻を労働者の決定に委ねたこととはならない。(昭63.1.1基発1号,平11,3.31基発168号)
としています。
3.フレックスタイム制の導入にあたり、労使協定で定めておいた方が良いこと
上述しました、
② 清算期間
③ 清算期間における総労働時間
④ 標準となる1日の労働時間
⑤ コアタイムを定める場合には,その開始・終了時刻
⑥ フレキシブルタイムを定める場合には、その開始・終了時刻
⑦ 清算期間が1カ月を超える場合には、協定の有効期間
は、フレックスタイム制を導入する上で、必ず労使協定で定めなければならない事項でした。
下記事項は、法律上の導入要件ではありませんが、労使協定で定めておいた方が事項です。
法定ではないが労使協定で定めた方が良い事項
① 早出・居残り命令権を取得するための規定
② 勤務予定表の提出を義務づける規定
③ フレックスタイム制における時間外労働について定める規定
④ 借時間についての繰り越し
⑤ フレックスタイム制における遅刻・早退
⑥ 休日の取扱い
⑦ 年次有給休暇等を取得した場合の取扱い
労使協定で定めておいた方が良いこと
① 早出・居残り命令権を取得するための規定
フレックスタイム制を導入しているのに、会社が、業務上の必要性のため、早出・居残り命令をだせるか?につきましては議論が分かれるところではありますが、フレックスタイム制の趣旨に反しなければ、労使協定で定めることによって、早出・居残り命令を出せると考えます。
労使協定で定めておいた方が良いこと
② 勤務予定表の提出を義務づける規定
労働者が始業・終業時刻をどのように選択したのかがあらかじめわからなければ、いくら早出・居残り命令権があったとしても行使することは事実上不可能です。
そこで、1週間単位で勤務予定表を提出することを労働者に義務づけ、あらかじめ労働者が選択しようとしている始業・終業時刻を把握できるようにした方が良いです。
しかし、勤務予定表どおりの出勤を厳格に強制することは、フレックスタイム制の趣旨に反しますので、予定表に記載された始業・終業時刻と実際の始業・終業時刻が
一致しなくとも、あくまでも予定ですから 遅刻扱い等の不利益な取扱いをすることは許されません。
労使協定で定めておいた方が良いこと
③ フレックスタイム制における時間外労働について定める規定
フレックスタイム制において法定時間外労働としてカウントされるのは、その清算期間における労働時間の合計が清算期間における法定労働時間の枠を超えた場合です。
下記のように計算する旨を定めると良いでしょう。
〇 法定時間内残業については時給分のみを支払う。
〇 一清算期間の実労働時間が、清算期間における総労働時間と清算期間における法定労働時間の総枠のいずれか多い方の時間を超えた場合に時間外手当を支払う。
労使協定で定めておいた方が良いこと
④ 借時間についての繰り越し
総労働時間に実労働時間が不足した場合に、直ちに賃金控除せずに、次の清算期間で不足分を労働させる制度を規定した方が良いです。
なお、超過時間(貸時間)の繰り越しについては、厚生労働省は労基法24条1項の賃金支払の原則に反するものとして否定する見解をとっていますので注意が必要です。
労使協定で定めておいた方が良いこと
⑤ フレックスタイム制における遅刻・早退
フレックスタイム制は、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる制度であるため、原則として遅刻や早退は生じません。
しかし、コアタイムの定めがあれば この時間帯の欠務が、遅刻・早退又は欠勤になります。
フレキシブルタイムに働くことのできる時間数は、総労働時間数からコアタイムの時間数を控除したものになりますので、フレキシブルタイム中にコアタイムの上記欠務分を補うことはできません。
しかし、会社が認めれば、このような取扱いも可能です。
労使協定で定めておいた方が良いこと
⑥ 休日の取扱い
休日(法定休日及び法定外休日)に勤務した場合は、フレックスタイム制の範囲ではないため 通常勤務の場合の休日労働と同様に総労働時間の枠とは別に休日出勤手当を支給することを明確化した方が良いです。
労使協定で定めておいた方が良いこと
⑦ 年次有給休暇等を取得した場合の取扱い
年次有給休暇を取得した場合は、標準となる1日の労働時間を勤務したこととみなされますので、この時間分が総労働時間に組み込まれます。
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